【過去記事(2004年1月掲載)】KID A / RADIOHEAD – 3/4 –

『キッド・エー』(Kid A)
イギリスのロックバンド、レディオヘッドのスタジオ・アルバム。
大々的なシングルやPVの制作を行わなかったにもかかわらず、イギリスでは発売1週間で30万枚以上を売り上げ、アメリカでもアルバムチャートで1位を獲得、日本でもアルバムチャートで3位に入るなど成功を収め、世界中で400万枚以上を売り上げた。(Wikipediaより)
M7「IN LIMBO」
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これが一番とっつきにくくて、一番ヤバい。
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この「IN LIMBO」と『okコンピュータ』の「CLIMBING UP THE WALLS」が一番つくるの難しかったと思う。
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ちゃんとしたコードもメロディーもないもんね。これ、よくつくったなー、マジで。
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メンバー自身、半信半疑ちゃうか、これ(笑)
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悪い言い方したら意味が分からんよね。リズムもグチャグチャやし。どこまで意図してやってるんか分からんけど。
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正直、迷いの中で感覚が麻痺している状態の中でやってる部分がある思う。ある種、覚醒した中で。それに、この曲を聴いていて思うのは、メンバー全員が、かなりジャズを聴いているよね。
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うん。俺が『キッド・エー』と比べる『アムニージアック』にそこまで傾倒できないのは、そこやねん。もちろん彼らは、いろんな音楽を聴いていて、たくさんの影響があるわけで、よく出されるのはオウテカに代表されるエレクトロニカとか、チャーリーミンガスに代表されるジャズとかやけど、『アムニージアック』に関してはレディオヘッドのフィルターが少し薄かったんよな。
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影響がもろな感じがするもんね。
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それが出来ることも凄いと思うねんけど、『キッド・エー』はそのバランスがすごく良かった。
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うーん、俺は『アムニージアック』に関して言うと、単純にもっとリバーブ感が欲しかった。もちろん生音が悪いわけじゃないんやけど、やっぱり受けた影響がもろに出てる曲が多い。『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』にもそういう曲があった。
M8「IDIOTIQUE」
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で、なんと言っても次。
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これやな。希代の名曲。
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おそらく、まず評論家はこの曲に食いついたんやろな。結局エレクトロニクス的な文脈で。
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そうかもね。この曲のドラムは完全にプログラミングされたモノやけども、やっぱり音が少ないのがいいね。普通、こういうことをすると、音を詰め込みがちやから。
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そうそう。ツクツクタカタカ……(←口で高速ドリルンベースやってる)
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リバース音を使ったり、エフェクトを多用したり。でもこの曲のドラムは、サスティンが長くて、それが歪んだ感じになってる。この辺の抑制具合がフィルの分かってる所なんよ。
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このリズムはほんまにかっこいい。ものすごい単純やねんけどね。俺らでもDTMを使って断片的には出来るくらいやな。
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音の配置はほんまに単純。ちょっとドラムをかじって「16で叩けるようになりました」っていう子が叩けるくらい。
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うん。ほんまにこの曲は音の少なさがポイント。
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少ないから1個1個が研ぎすまされる。
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あと、この曲に関しては歌詞がほんまにヤバい!! 「ice age’s coming, ice age’s coming」って、よう言うたもんやで。
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トムの歌詞は批評性がめっちゃ高くて、少し毒もある。そして、残りの解釈は聴く側に任せますって感じ。
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うん。ほんまにトムの歌詞はヤバい。俺は「FAKE PLASTIC TREES」の歌詞とかも、すごい好きやったりする。意味がすごい曖昧なんよな。
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うん。曖昧。そこが重要やね。あとこの曲に関して見逃したらあかんのが、ライブバージョンのドラム。2回目のAメロから生になるやつ。
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あそこ、ほんまにすごいと思うわ。
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いわゆるエレクトロニカと呼ばれるアーティストって、いかに、よりフィジカルに訴えかけれるかっていうのは1個のテーマ。それを体現したのがあれやな。
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ほんまにそうや。やっぱりライブ中にラップトップを前にして、後ろを向いてジュース飲んでるようじゃあかんからな(笑)
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おい、エイフェックス・ツインの悪口はそこまでや!
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(爆笑)
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まあ気になる人はフジロックのビデオ見てください(笑)。ま、映った時に、たまたま休んでただけかも知らんけど。
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とにかく、ライブでやる意味っていうのを完全に見せてくれたよな、この曲で。
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うん。『キッド・エー』と『アムニージアック』リリース後の大阪城ホールのライブを見に行った時、まったく予想してなかった嬉しい驚きが、『キッド・エー』の曲がライブで一番かっこよかったことなんよ。
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そう。そこ!!
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例えば『OKコンピュータ』とか『ベンズ』とかの曲の方が、音源と同じBPM、同じ構成で、アレンジがあんまり見えなかった。その点『キッド・エー』の曲は、ライブで一番よかった。
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このアルバムが出たことによって、エレクトロニカ周辺のアーティストは、否が応でも「ライブでどう見せるか」っていうことを意識しないとダメなようになったよ。
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ほんまにそういうことやな。「いい音源さえつくればいい」っていうだけじゃダメ。レディオヘッドしかり、例えばマッシブ・アタックしかり、ライブではしっかり腰を浮かしてフィジカルに訴えてくるから。あと、この曲はクラブユーザーにおけるレディオヘッドのファン獲得に一役かってると思う。転機になった曲よな。
M9「Morning Bell」
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で、またも名曲(笑)。この曲は俺はベースが好き。
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この「MORNING BELL」に関しては『アムニージアック』のより、こっちの方がかっこいい。
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音が丸いんよ。めっちゃ優しい。
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ドラムはほとんどループしてるだけやな。
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途中で半拍ずつズレたりするっていうギミックがあるよ。そこのリズムが、非常にとりにくい。
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いや〜、ベースがヤバいな。こういう所にコリンのセンスを感じるな。
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普通なら主張するやろうっていう所で主張せずに、「ここで来るか!」っていう所でくる。
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“抑制”っていうのを分かってるんよな。ここなら自分の音が前に出過ぎず、なおかつ主張できるっていう所で入ってくるから。あと、こういう混沌としたイメージの曲の調合でも、なんやかんや言って、トムのボーカルがすべてを切り裂いて、スッと持って行ってくれるっていう所がいいよな。
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うん。リズムがややこしかったり、上音がゴチャゴチャしてたりしても、安心して聴ける理由やと思う。
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ロックを聴いてる人でレディオヘッドが嫌いな人も一定数いるけど、俺はやっぱりトムって希代のシンガーやと思うんよな。歌が上手くて、説得力があるボーカルも、それはそれでいいと思うけど、例えばプライマル・スクリームのボビーなんかもヘロヘロ言うてるだけやからな(笑)
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アハハハ。「セーックス! セーックス!!」って言うてるだけ(笑)
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「おいおい、もっとやる気出せよ!!」って。それでもやっぱり、かっこいいし。
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あと、この時代にしてはすごく短いアルバムよな。ほんまにコンパクトにまとめられてる。
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でもこれくらいが一番いいわ。長過ぎるんよ、最近のアルバムって。だって昔のアルバムなんか全部9曲とか8曲とかやで? ブラック・サバスのファーストなんか、6曲とかやで(笑)
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(笑)
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昔のアルバムで曲が少ないっていうのは、単純にレコードやったから1枚の容量が少なかったっていうのもあるとは思うねん。でもデジタルになって、CDは80分も入れられるからって、無駄に長いCDが多過ぎるんよ。もちろん、気軽に頭出しも出来るようになっただけに「はい、いっぱい曲ありますから。取り出して1曲でもいい曲あったらアルバム買って下さいね。それで満足でしょ? 得したでしょ?」って思えるような、流れを無視したモノが多い気がしてな……。
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うん。ほんまに短いもん、このアルバム。でも内容はめちゃ濃い。
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その方が何回も聴けるしな。お腹いっぱいにならずに腹8分目で終わる。それくらいの方がいい。