コンシャス

(笑)でとどけるマジメなウェブマガジン(仮)

酒の肴にこの一枚

【過去記事(2004年1月掲載)】KID A / RADIOHEAD – 2/4 –

『キッド・エー』(Kid A)

イギリスのロックバンド、レディオヘッドのスタジオ・アルバム。

大々的なシングルやPVの制作を行わなかったにもかかわらず、イギリスでは発売1週間で30万枚以上を売り上げ、アメリカでもアルバムチャートで1位を獲得、日本でもアルバムチャートで3位に入るなど成功を収め、世界中で400万枚以上を売り上げた。(Wikipediaより)

M4「HOW TO DISAPPEAR COMPLETELY」

俺はこの曲がこのアルバムで一番好きかも。

この曲はあれですね。トム・ヨークがとあるライブで、あまりに大勢の観客を前に完全にテンパってしまって、R.E.Mのマイケル・スタイプに電話をかける。そしたらマイケル・スタイプが「完全に消してしまえ、自分はここにいないと思え」っていう助言をしたらしく、そこから産まれたっていう逸話があるね。だから曲名は「HOW TO DISAPPEAR COMPLETELY」で、「I’M NOT HERE」って歌ってるとか。トムのナイーブな一面が見られる話やけども。

俺はそういうエピソードを聞く前に、この歌詞を聞いて「そんなこと言うんか」って思ってたわ。

この曲はベースが半フレーズずれて入ってくるから、不思議な感じなんよな。ちょっと騙される。っていうか、俺はずっと騙されてた。

俺はレディオヘッドの数多くの曲の中でも、このトムのボーカルはすごい好き。

このレンジをずっとキープするっていうのがね。

確か、この曲は、ジョニーが変わった楽器を弾いてるんよな。

あ、そうなんや。

うん。世界に何人かしか名手がいない、みたいな感じやったような。で、日本にいたんとちゃうかな、その名手が。で、来日した時にジョニーがその人に教えてもらったらしいけど。

とにかくすごく平坦な曲。特にピークポイントもないし、聴きどころもない。でもこういう曲をつくるのが一番難しいんよな。

ほんまにそう思うで。例えば今の“ホワ~ン”って音(TIME1:30~)とか、挿しで入ってくる音のタイミングも絶妙。結局こういう平坦な曲で聴かそうと思ったら、どこに何が入ってくるかとか、どこで何が鳴ってるかとか、そういう音の選び方と入り方っていうのが……こいつらは分かっとるな~。俺は、家に帰って疲れたときに、この曲を聴くんよ。誰だってしんどい時もあるし、「もーええわ」って思う時もあるやん? でもこの曲を聴いて寝たら、次の日にスッキリするんよ。その日はそれで終わらせて、っていう。俺のスイッチ切る時にいつもこの曲を聴くんよ。

で、このさり気ないドラムの入り方!!(TIME2:15~)。

このアルバムに関しては、一番我慢して、なおかつ頑張ろうとしたのはフィルやと思うで。

もちろんバンドである限り、エゴもぶつかるし、特にこれくらいの灰汁の強い人間やからレディオヘッドなんか大変よ。そういう意味でフィルはほんまにメンバーのバランスとってると思うで。音の方向性が変わることで、辞めていくドラムも現にいるわけやんか。

そうやな。

「EVERYTHING IN ITS RIGHT PLACE」にしてもキックだけやから。

ライブではキック踏みながら、上で何かやってなかった?

シェイカーみたいなのん、振ってるんよ、ライブでは。

せやせや。いやー、しかし、アカン。この曲はヤバ過ぎる。

この曲はトムはずっとアコギ弾いてんねやっけ?

そやで。これ確か、日本公演の本編の最後やったかな?

ん? 本編の最後は「EVERYTHING IN ITS RIGHT PLACE」じゃなかった? 「IDIOTIQUE」から「EVERYTHING IN ITS RIGHT PLACE」。

あー、そやそや。1回目のアンコールの最後やわ。だいたいアンコール2回あったからな。

トムのメロディーも普通やのに、独特。

トムはね、ボーカリストが持っておきたい要素である“声質”がいい。歌は下手やねん、トムは。ライブで声、裏返りまくってるし。おそらく声学的には、理にかなった歌い方じゃないんやと思うで。

うん、けっこう無理してる感じ、するよね。

やっぱ、クラシックとかの声学で言うと、いかに体を使って、マイクなしでどれだけ遠くの方に飛ばせるか。さらに、その中で感情を表現するっていう……。

複式呼吸とか?

そうそう。そういう所に焦点を置かなあかんねんけど、俺がロックのシンガーってすごく魅力的やなって思うんは、別に腹から歌ってなくて口先で歌ってても、途中で声が裏返っても、まあ人間の感情なんてそんなもんやんか。自分が一番言いたい時に限って声が裏返っってしまったり、ろれつが回らんようになったり……。そういうことをロックの人間って歌にしてるんであって、もちろんクラシックの声法が悪いとは思わへんけど、ロックの歌い方の方が、人間の生活に密着してるんよな。トムなんかほんまにそういうボーカルやと思うで。

んで、時にあり得へんピッチに行くよな。「え? それ、ミスってるんじゃないの?」っていうピッチを使う。それはデフトーンズのチノもそうやねんけど。「そこでいいの? 半音落ちてるやん」っていうピッチに行くんよ。

そうそう。

それがまた良かったりするんやけど。普通に考えたら下手やん、っていう。

だから専門家に聴かせたら「ほんまにこいつは……」ってなると思うで。

「このキーで、その音を使ったらあかんやん」っていう。

その点、カート・コバーンなんかは、比較的に普遍的な歌い方なんじゃない?。腹の底から歌ってる。ピュアアメリカン的な歌い方やわ。

M5「TREEFINGERS」

名曲に続いて、またもや名曲(笑)

これはアレですね。あめやんもDJする時に使ってるな。

田中フミヤの「DRIVE#1」に重ねて使ってます。

「TREEFINGERS」にビートが無いからっていう噂も(笑)

繋ぎやすいだけっていう……(笑)。まあ何にしろ、この曲ヤバくない?

この曲はヤバいな。

この曲を作っている時に、「え? この曲これでいいの? やめようや」ってならんのが不思議。

そう、そこ。ほんまレディオヘッド聴いてて思うんはそこなんよ。

例えば俺らが曲を作ってたら、途中で「これ、かっこよくないよ。やめて次の曲、いこう」ってなるで。

ほんまに“マジック”なんよな。俺はいい音楽にはマジックがあるって本当に思ってる。レディオヘッドっていうバンドにも、やっぱり言葉では語り尽くせないマジックがある。だってレディオヘッドじゃないアーティストがこれと同じ曲を作ってきても、俺は聴き流してるような気がする。それはもしかしたら、いわゆるメディアコントロール的に「レディオヘッドはかっこいい」って俺らが刷り込まれてるんかも知らんけど、でもやっぱり、レディオヘッド独特のフィルターがあって、ポップさがあると俺は信じたいな。

この曲なんか、レディオヘッド特有のリズムとか、一番の聴きどころであるトムのボーカルとかが一切ないのに、でもやっぱりレディオヘッドなんよ。だから語られへん部分であるんやろうな、そのマジックっていうか……。

俺はそう思うな。それは語られへんと思うし、語らんでいいと思う。例えばビートルズにしてもさ、あれだけ素晴らしい音楽をいっぱい作って、それぞれの能力も高かったと思うけど、それを差し引いても、やっぱりどう考えても魔法がかかってたとしか思われへん。

なるほど。そのビートルズつながりの話なんやけど、『KID A』っていうアルバムの何が新しかったかっていうと、今、こうやってMACで聴くと、やっぱりちょっと音ショボいやん? つまり『KID A』って、聴くスピーカーの性能が良ければ良いほど、良く聴こえるんよ。聴いてると耳がよくなるんよね。

そうやな。

でも、主にビートルズが発明して、その後ずっとポップミュージシャンに受け継がれてきたのは「古くて、ショボいスピーカーで聴いても、逆にめちゃめちゃハイクオリティーなスピーカーで聴いても変わらない」っていう概念であって、それがずっとポップミュージックにおいて正のベクトルやった。その点『KID A』は新しくて、いいスピーカーであればある程よく聴こえる。すごく耳が育つんよ、このアルバムは。

ほんまにそうやな。ある程度いい環境で聴くと、いろんなもんが聴こえてくる。

こういう音って、冒険やったと思う。

いま、市場に出回ってるエレクトロニカのCDって、いいスピーカーで聴くと凄い低音が抜けててかっこいいと思ったりするけど、例えば低音がカットされるようなスピーカーで聴くと、ただ単純に割れて聴こえるだけで何が鳴ってるのか分からへんっていうようなものもあるから。だから、どんなスピーカーで聴いてもちゃんと聴けて、良ければ良い程良い風に聴こえるっていう、その音のセッティングってすごい難しいと思うわ。ビートルズなんかドラムの音が完全に左に振られてるとかあるもん(笑)

そうそう(笑)。モノラルで聴いたら意味が分からへん。

M6「OPTIMISTIC」

昔「この曲の役割がでかい」って耕輔は言うてたね。

俺ずっと思ってたんやけど、“核”となる曲がアルバムには必要になるんちゃうかな、と。どの音楽でも、同じ感情で進むだけじゃ面白くないから。だって人間には、いろんな感情があるし、それをちゃんと表現できているモノが、長く聴けるものやと思うんよ。例えば、自分がすごく落ち込んでる時には、「OPTIMISTIC」はキラキラし過ぎてるかも知らん。だけど、トータルで見ると、この曲があるからこそ、どんな時に聴いても大丈夫なんよね。

そうね。この曲は質感っていうか、色が他とぜんぜん違うからな。“バンドサウンド回帰”とか、そんな単純な話じゃなくて。

うん、全然違う。「え? なんで??」っていう。

でも結果的に、この曲が無かったら、ここまで『KID A』を評価しないよな。

最初にパッと聴いた時とか「なんでこの曲だけこんなに違うんやろな」って、少し疑問を持ってたんやけど、長く聴けば聴く程、「あ、なるほどな」っていう感じ。ここで1回ターンして休憩できるというか。

確かにちょっととっつきにくい。ギターにしてもコード感が薄いし、メロディーも分かりにくい。

うん。この曲があるからこその『KID A』やと思うで。これは仮定やけど、もし俺らが『KID A』みたいなアルバムを作っていたとして、メンバーの誰かが、この曲を持って来たとしたら、周りのメンバーは「いや~、この曲はちょっと浮いてるやろー」ってなると思うんよ。

「バランスが悪くなるってー」みたいな。「こんなん、無くていいんちゃう? ライブだけやったらいいやん」って。

その決断をしてる際に、レディオヘッドの面々は、俺らがこうやって考えてる程考えてないかもしらんし、それならそれで、恐ろしいな。適当やったら余計に恐いわ。

そうやな。

この質感って、あんまり無い感じ。少し『HAIL TO THE THIEF』に引き継がれてるような感はあるけど。

うん、ほんまやね。それぞれの音が、訳分からん感じというか……。

そうそう。録音状態も、わざと全部の音がゴッチャになってる。

で、ここからドラムのシンバルが響き始めて、スッと全体がまとまる感じやんか。『OK コンピューター』に入っている「LET DOWN」の、2回目のAメロと同じやねんけど。ココが好きなんよな、俺。ココ!(TIME4:20~)。スッと曲が立つというか。音の録りも、ココでちょっとまとまる感じ。

トムのよく使う方法やけど、一番いいメロディーを、最後にちょっとだけ出すっていう。

そうそう。「メインで持ってこいよ」っていうのを、最後の方にチョロっと出すんよな(笑)。

酒の肴にこの一枚